コラム

【インボイス登録・相続があった場合】

令和5年10月1日から消費税インボイス制度が開始されました。この制度については様々話題になっているところですが、今回はインボイス登録をした個人の方に相続が発生した場合のインボイスの取扱いについてお話しをいたします。

 

インボイス登録をした個人事業者に相続が発生した場合には、そのインボイス登録の効力はその相続人等には引き継がれません。つまりその効力を失うことになります。しかし、相続が発生した日の翌日から効力を失ってしまう(=インボイス発行ができない)というのはあまりにも酷なので、「みなし登録期間」というものが設けられています。

これは相続が発生した日の翌日から4ヶ月を経過した日まで、その相続人がお亡くなりになった方の登録番号等を引き継いでインボイスを発行することができるという制度です。この4ヶ月の間に事業を引き継いだ方がインボイス登録をすれば、空白期間が生じることなく引き続きインボイスを発行することができることになります。

 

これで安心!とはいきません。この「みなし登録期間」内に事業を承継する方が決まり、その方がインボイス登録をすれば空白期間が生じることなくインボイスを発行し続けることができます。しかし、もし遺言書がない場合に、この「みなし登録期間」内に事業を承継する方が決まらないときはそう簡単にはいきません。不動産賃貸業を例にみていきます。

不動産賃貸業を営んでいた方に相続が発生した場合、その事業を承継する人=その不動産を相続する人となります。つまり事業の承継は遺産分割の確定が前提となります。民法上は遺産分割が確定するまで、相続財産は「各共同相続人にその相続分に応じて帰属するもの」となります。つまり、遺産分割確定まではその相続人の共有というかたちになります。この遺産未分割の状態でインボイス登録の空白期間を生じさせないためには様々な対応が必要となります。

 

① みなし登録期間内に遺産分割が確定した場合

・相続開始から遺産分割確定までは「みなし登録期間」により相続人全員がインボイス発行と申告・納税

・分割確定後は、当該財産を相続した相続人がインボイス登録をして申告・納税

 

② みなし登録期間内に遺産分割が確定しなかった場合

・相続開始から「みなし登録期間」までは相続人全員がインボイス発行と申告・納税

・「みなし登録期間」終了までに相続人全員がインボイス登録を行い、遺産分割確定まで引き続き申告・納税

・遺産分割確定後は、当該財産を相続した相続人が申告・納税

(他の相続人は必要なければインボイス登録取りやめ等)

 

相続開始から4ヶ月間で遺産分割を確定させるのは至難の業といえるのではないでしょうか。そのため実務上は上記②のケースが多くなるのではないかと思います。相続開始の翌日から4ヶ月というと準確定申告の期限とも重なります。このタイミングで遺産分割が確定していない場合に、相続人の方全員にこの説明をし理解して頂いた上で意志決定を求めるのは、相続人の方にとって大変なことだと思います。ただでさえ大変な状況だと思いますが、インボイス制度への対応も十分お気を付けください。

 

(注)厳密な規定の説明をしているものではありません。規定上はインボイスの登録申請は登録を受けようとする日の15日より前に提出しなければならない、みなし登録期間中に相続人から登録申請書の提出があった場合にはその期間が延長される、など詳細が定められています。実際の届出、申請等を行う場合には専門家等に確認するなど、十分ご注意ください。